商圏分析の進め方 データ収集から出店判断・集客改善への活用まで
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商圏分析の進め方 データ収集から出店判断・集客改善への活用まで

執筆: ローカルマーケティングパートナーズ 編集部

監修: 山本 貴大

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商圏分析は、新規出店の立地選定や既存店の売上改善に不可欠な実務スキルです。かつては大手チェーンが高額なGISツールを導入して行うものでしたが、現在はjSTAT MAPなどの無料ツールとオープンデータを活用すれば、中小事業者や個人オーナーでも基礎的な商圏分析が実施できる環境が整っています。

本コラムでは、商圏分析の理論的な背景から実務の進め方、業種別の商圏距離の目安、ツールの費用比較、そしてデジタルマーケティングへの活用まで、出店判断や集客改善に必要な情報を一本にまとめています。エリアマーケティングの全体像はエリアマーケティングの基本と実践で整理しているので、あわせて参照してください。

商圏分析の実践ステップ 1次・2次・3次商圏の設定から意思決定への活用まで

商圏分析とは何か

商圏と商圏分析の定義

商圏とは「ある店舗に来店する可能性のある顧客が生活している地理的範囲」を指します。商圏分析とは、その範囲内の人口動態、競合環境、交通アクセスなどを定量的に把握し、ビジネスの意思決定に活用するプロセスです。

一般的に商圏は3段階に分けて考えます。

  • 1次商圏 — 来店頻度が最も高い顧客層のエリア。徒歩・自転車で5〜10分圏(半径500m〜1km)が目安
  • 2次商圏 — 週1〜2回程度の来店が期待できるエリア。車や公共交通で10分圏(半径1〜3km)
  • 3次商圏 — 月数回の来店があり得るエリア。車で15〜20分圏(半径3〜5km)

この範囲は業態によって大きく異なります。コンビニの1次商圏は半径500m程度ですが、大型商業施設であれば車で30分圏まで広がります。BtoBの事業所向けサービスでは、商圏を「エリア」ではなく「業種×企業規模」で設定するケースもあります。

商圏分析が必要になる場面

新規出店の判断 — 候補地の市場ポテンシャル(人口・世帯・消費傾向)を数値化し、売上予測の精度を上げる

既存店舗の集客改善 — 実際の来店データと商圏特性を照合し、取りこぼしているターゲット層や効果の薄いチャネルを特定する

多店舗展開の戦略設計 — 店舗同士の商圏重複(カニバリゼーション)を防ぎながら、カバー率を最大化する出店計画を立てる

販促エリアの最適化 — チラシの配布エリア、ジオターゲティング広告の配信範囲、ポスティングのルート設計に反映する

エリア選定の判断基準を体系的に整理した内容は出店エリアの選び方ガイドでも詳しく解説しています。

商圏分析の理論 ライリーの法則とハフモデル

商圏分析には古くから研究されてきた理論モデルがあります。実務で直接数式を使う場面は少ないですが、考え方を知っておくことでデータの解釈精度が上がります。

ライリーの小売引力の法則

1931年にウィリアム・ライリーが発表した法則で、2つの都市が間にある地域の消費者を引きつける力は「都市の人口に比例し、距離の二乗に反比例する」という考え方です。

たとえば、人口30万人のA市と人口10万人のB市の間にある住宅地の住民がどちらに買い物に行くかを考えると、単純な距離だけではなく、都市の「引力」(品揃え・商業集積度)が影響します。A市のほうが遠くても、商業集積が大きければそちらに吸引される顧客が一定数出るという理屈です。

中小事業者にとっての活用ポイントは、「近くに大規模商業施設がある場合、自店の商圏は理論値より狭くなる可能性がある」という視点を持てること。逆に、近隣に大型施設がない立地であれば、通常より広い商圏を見込める可能性があります。

ハフモデル(確率的商圏モデル)

1963年にデビッド・ハフが提唱したモデルで、消費者がある店舗を選ぶ確率を「店舗の魅力度(売場面積など)」と「店舗までの距離」の関係で算出します。ライリーの法則が都市単位の大きな話だったのに対し、ハフモデルは個別店舗レベルで「この店舗に来る確率は何パーセントか」を計算できる点が実務向きです。

ただし、ハフモデルは「売場面積が大きいほど魅力的」という前提のため、専門店やパーソナルサービス(美容室・治療院など)には直接適用しにくい面があります。実務では面積の代わりに口コミ評価やメニュー数を「魅力度」の代理変数にするなど、業態に合わせたアレンジが必要です。

理論を実務に活かすポイント

これらのモデルが教えてくれるのは、商圏は「同心円で機械的に引ける線」ではなく、「競合の引力」と「自店の魅力度」で動的に変わるものだという点です。jSTAT MAPで半径1kmの円を引いただけで「1次商圏の人口は〇万人」と結論づけるのではなく、競合の規模・距離を加味して商圏の実効範囲を見積もる習慣をつけることが、精度の高い分析への第一歩になります。

実務では「理論モデルで完璧な計算をする」必要はありません。重要なのは、「近くに大きな競合がいると自店の商圏は狭くなる」「自店の独自性が高ければ商圏は広がる」という原則を理解し、同心円の範囲を頭のなかで補正できることです。

業種別の商圏距離の目安

「自分の業種では商圏をどこまで設定すればいいのか」は、商圏分析で最初に迷うポイントです。以下は業種別のおおまかな目安をまとめたものです。

業種1次商圏2次商圏主な来店手段来店頻度の目安
コンビニ半径500m半径1km徒歩毎日〜週数回
スーパー半径1km半径3km徒歩・自転車週2〜3回
美容室・理容室半径1〜2km半径3〜5km徒歩・自転車・車月1回
飲食店(日常利用)半径500m〜1km半径2km徒歩週1〜3回
飲食店(目的来店)半径3km半径10km車・電車月1〜2回
フィットネスジム半径3km半径5〜8km車・自転車週2〜3回
学習塾・スクール半径2km半径5km自転車・車(送迎)週1〜3回
クリニック(内科)半径1km半径3km徒歩・自転車月1回
歯科半径1〜2km半径3km徒歩・車月1〜2回
大型商業施設半径5km車30分圏週1回
整骨院・リラクゼーション半径1km半径3km徒歩・自転車週1〜2回

上記はあくまで一般的な目安であり、駅前立地か郊外ロードサイドか、競合の密度はどうかによって実際の商圏は伸縮します。とくに個人経営の専門店(パーソナルジム、こだわりのカフェなど)は技術やコンセプトの独自性が高ければ、通常の商圏より広い範囲から集客できるケースもあります。

商圏距離を読み違える典型的なパターンがいくつかあります。

郊外ロードサイド店を都心型の商圏距離で見積もるケース — 郊外では車移動が前提のため、都心の徒歩圏ベースの商圏設定では範囲が狭すぎます。郊外のフィットネスジムは車で15〜20分圏がメインの商圏になることも珍しくありません。

駅前立地でも駅の反対側は来ないケース — 線路や大通りといった心理的・物理的なバリアがあると、距離は近くても実際の来店率が極端に低下します。地図上の同心円だけでは捉えられない要素です。

観光地・繁華街は居住者商圏と来訪者商圏を分けるべきケース — 日常利用(居住者)と非日常利用(観光客・買い物客)では商圏の性質が異なります。居住者商圏は狭い一方、来訪者商圏は電車路線に沿って遠方まで伸びるため、分けて分析する必要があります。

各エリアの人口構成・消費傾向・競合施設数を横並びで比較するにはエリアデータベースを活用できます。出店候補地の市場ポテンシャルを業種別に確認する際にお役立てください。

商圏分析に使うデータの種類

商圏分析の精度は「どんなデータを使うか」で大きく変わります。目的に応じて使い分けることが重要です。

統計データ(マクロ情報)

国や自治体が公開している統計情報は、商圏分析の土台になるデータです。

  • 国勢調査 — 5年ごとに更新される人口・世帯・年齢構成のデータ。町丁目単位で入手可能
  • 商業統計調査 — 小売・飲食業の事業所数・従業者数・販売額を把握できる
  • 家計調査 — 地域ごとの消費支出パターンを確認できる。業種ごとの年間消費額から市場規模を推計可能
  • 昼間人口データ — 通勤・通学で流入する人口を含めた実態を把握する。オフィス街では昼間人口の方が重要

自社データ(ミクロ情報)

自社が保有する顧客データは、商圏の「実態」を映す最も精度の高い情報源です。

  • 顧客住所データ — 実際にどこから来店しているかをプロットすることで、理論上の商圏と実商圏のズレを把握できる
  • POSデータ — 時間帯別・曜日別の売上傾向から、商圏内の生活パターンを読み取れる
  • 会員カード・アプリデータ — 来店頻度や購買履歴と住所を紐付けて、ロイヤルティの高い顧客がどのエリアに多いかを特定する

人流データ(行動情報)

スマートフォンのGPS情報をもとにした人流データは、近年の商圏分析で急速に重要性が増しているデータです。

  • 実際に人がどこからどこへ移動しているかを可視化できる
  • 競合店舗への来訪者の動向も把握可能
  • 時間帯・曜日別の通行量データで、候補地のポテンシャルを客観的に測れる

人流データは技研商事やunerryなどの専門事業者がサービスとして提供しています。費用はかかりますが、候補地の実態を把握する精度は統計データだけの場合と比較して格段に上がります。一方で、中小事業者が1店舗の出店判断のために人流データを契約するのは費用対効果が見合わないケースも多いため、まずは無料の統計データ+現地調査から始めるのが現実的です。

商圏分析の実践ステップ

ここからは、実際に商圏分析を進める手順を解説します。

Step 1 目的と対象エリアの設定

商圏分析の目的を明確にします。「新規出店の候補地を評価する」のか、「既存店の集客を改善する」のかで、見るべきデータも分析の切り口も異なります。

新規出店の場合は、候補地を中心に半径1km・3km・5kmの同心円を引き、それぞれの圏域を分析対象とします。既存店の改善であれば、顧客データから実際の来店範囲を特定し、その範囲を分析対象にします。

出店候補地の絞り込み方法やリサーチの全体フレームは新規出店のエリアリサーチで解説しています。

Step 2 商圏内の人口・世帯データを取得する

対象エリアが決まったら、商圏内の基礎データを収集します。無料で使える代表的なツールが総務省統計局のjSTAT MAPです。

jSTAT MAPの操作は比較的シンプルです。

  1. 地図上で店舗の位置を指定する
  2. 「リッチレポート」機能で半径を指定して商圏を描画する
  3. 商圏内の人口・世帯数・年齢構成が自動集計される

取得した数値を1次・2次・3次商圏ごとにまとめ、以下の項目を整理します。

  • 総人口と世帯数
  • 年齢構成(特にターゲット層の比率)
  • 昼間人口と夜間人口の差
  • 世帯構成(単身、ファミリーなど)

jSTAT MAP以外にも、e-Statから町丁目別のCSVデータをダウンロードしてExcelやGoogleスプレッドシートで加工する方法もあります。CSVのほうがフィルタリングや独自の計算(ターゲット人口の算出など)を柔軟に行えるため、複数候補地を一覧表で比較したい場合に向いています。

Step 3 競合環境を調べる

商圏内の競合状況を把握します。Googleマップで業態名を検索し、商圏内に存在する競合店舗をリストアップするのが最も手軽な方法です。

リストアップしたら以下の情報を整理します。

  • 店舗名と住所
  • 自店からの距離
  • 業態・価格帯・ターゲット層の重複度
  • Googleの口コミ評価とレビュー数(集客力の目安として参考になる)

競合が多いエリアは市場が大きいとも解釈できるため、単純に「競合が多い=悪い」とは限りません。重要なのは、自社のポジションが取れるかどうかです。口コミ評価の活用方法はGoogleビジネスプロフィールの口コミ活用で詳しく解説しています。

Step 4 現地調査を行う

データ分析だけでは見えない情報は、現地に足を運んで確認します。以下は現地調査で見るべきポイントです。

  • 交通動線 — 主要道路からのアクセス、駐車場の有無、歩行者の導線
  • 視認性 — 通行者や車からの店舗の見えやすさ
  • 周辺施設 — 集客のアンカーとなる施設(駅、スーパー、病院、学校など)の有無
  • 時間帯による変化 — 平日と休日、昼と夜で人通りや客層がどう変わるか

データ上は好条件に見えても、実際には道路構造の関係で車が入りにくかったり、視認性が低くて通行者に気づかれにくい場所だったりするケースは珍しくありません。現地調査は平日・休日の両方で、できれば時間帯を変えて2回以上実施するのが理想です。1回の訪問で「人通りが少ない」と判断しても、曜日や時間帯によってまったく違う景色になることがあります。

Step 5 データを統合して評価する

収集したデータを一つのシートにまとめ、候補地の評価を行います。複数の候補地を比較する場合は、評価項目を統一してスコアリングすると、属人的な判断を排除できます。

項目内容配点例
1次商圏人口ターゲット層の人口規模20点
競合密度商圏内の同業店舗数15点
交通アクセス主要道路・駅からの距離15点
視認性通行者からの発見しやすさ10点
昼夜間人口差昼間に流入する人口の多さ10点
家賃・坪単価出店コストの妥当性15点
周辺施設アンカー施設の有無15点

配点は業態によって調整します。飲食店であれば視認性と交通アクセスのウェイトを高めに、学習塾であれば1次商圏人口(子育て世帯の比率)を重視するなど、事業特性に合わせたカスタマイズが精度を高めます。候補地が3つ以上ある場合は、このスコアリングシートを使って絞り込み、上位2〜3候補に対して現地調査を追加実施するのが効率的な進め方です。

商圏分析に使えるツールと費用の比較

商圏分析ツールは無料のものから月額数十万円の業務用まで幅広い選択肢があります。自社の分析頻度と目的に合わせて選びましょう。

無料ツール

jSTAT MAP(総務省統計局) — 国勢調査データを地図上にマッピングできる。商圏レポートの自動生成機能あり。初めて商圏分析を行う場合の第一選択肢。費用はゼロ。

e-Stat — 政府統計のポータルサイト。人口、産業、家計など幅広い統計データをCSV形式でダウンロードできる。

Googleマップ / Googleマイビジネス — 競合調査と自店への来店経路の分析に使える。インサイト機能で検索キーワードや来店者の居住エリアを概算レベルで確認可能。

有料ツール

ツール名提供元月額費用の目安特徴
MarketAnalyzer技研商事月額10万円〜GISベースの本格ツール。人流データ連携あり。大手チェーンの導入実績が多い
TerraMapマップマーケティング月額5万円〜商圏分析特化のクラウドGIS。直感的なUIで、中小企業向けプランあり
Area Marker国際航業要問い合わせ統計+人流データの複合分析。売上予測モデル構築にも対応
KDDI Location AnalyzerKDDI月額10万円〜auの位置情報を使った高精度な人流分析。通信キャリアならではのデータ量

※費用は公開情報・見積もり事例ベースの目安です。契約条件やオプションで変動します。

ツール選びの判断基準

年に数回の出店判断であれば、jSTAT MAP+Googleマップ+現地調査で十分なケースが大半です。月額費用が発生する有料ツールは、月次で全店舗の商圏データを更新する必要がある多店舗チェーンや、年間複数拠点の出店を計画している企業にフィットします。

中小事業者が最初にやるべきことは、有料ツールの比較検討に時間をかけることではなく、まずjSTAT MAPで自店の商圏を一度可視化してみることです。そのうえで「もっと詳しく知りたい」と思ったポイントが、有料ツールの検討理由になります。

有料ツールを検討する際のチェックポイントとして、以下を確認しておくと失敗を防げます。

  • 無料トライアル期間の有無(TerraMapは無料デモあり)
  • データの更新頻度(人流データは月次更新が標準、統計データは5年おきの国勢調査ベースが多い)
  • 自社の顧客データをインポートできるか(CSV取り込みの可否)
  • レポートのエクスポート形式(社内稟議でPDF出力が必要な場合がある)
  • 契約期間の縛り(年間契約のみか、月単位で解約可能か)

商圏分析の結果をデジタルマーケティングに活かす

商圏分析は出店判断だけのものではありません。日々のデジタル広告運用やSEO施策に直結する使い方があります。

Google広告のエリアターゲティング

Google広告(検索広告・ディスプレイ広告)では、配信エリアを市区町村単位や半径指定で設定できます。商圏分析で特定した「ターゲット層が多いが来店率が低いエリア」に集中配信することで、広告の費用対効果が改善します。

具体的には、1次商圏には検索広告(「地域名+業種」キーワード)を配信し、2次商圏にはディスプレイ広告でブランド認知を狙う、という二段構えが効果的です。Google広告の「所在地ターゲティング」と「関心のある地域ターゲティング」の違いにも注意が必要です。デフォルトでは「その地域にいる人、またはその地域に関心を示している人」に配信されるため、実際にはその商圏にいないユーザーにも広告が表示される場合があります。商圏に合わせた精密な配信をするには「その地域にいる人のみ」に設定を変更します。

地域名を含むキーワード施策はローカルキーワードを活用したSEO施策と組み合わせると、広告とオーガニック検索の両面でカバーできます。

SNS広告のジオターゲティング

Instagram広告やLINE広告もエリア指定が可能です。とくにInstagram広告は半径1km単位で配信エリアを絞れるため、1次商圏への集中配信に向いています。

商圏分析で「20〜30代女性が多い2次商圏エリア」を特定したら、そのエリアにInstagram広告を配信する——このようにデータ起点で広告設計を組めると、感覚的な出稿とは費用対効果が大きく変わります。LINE公式アカウントの友だち追加広告もエリア指定が可能で、来店促進のクーポン配信と組み合わせると1次商圏の来店率向上に直結します。

チラシ・ポスティングのエリア設計

紙媒体の販促も商圏分析と密接です。ポスティングの配布範囲を「来店率が低いがポテンシャルの高いエリア」に絞ることで、無駄な配布コストを削減できます。商圏分析なしに「店から半径2km」と感覚で配布範囲を決めるのと、データで「この町丁目はターゲット世帯が多いのに来店が少ない」と特定してからチラシを配るのとでは、反応率に明確な差が出ます。チラシとWeb広告の使い分けはチラシ vs Web広告で詳しく解説しています。

商圏分析の結果を出店判断と集客施策に落とし込む

商圏分析は「分析して終わり」にしがちです。レポートを作成しただけで満足し、実際の意思決定に使われないケースは少なくありません。データを意思決定にどう反映するかまで設計しておくことが、投資対効果を高める鍵になります。

出店判断に活かす

商圏分析の結果、以下の条件が揃えば出店の優先度が高いと判断できます。

  • 1次商圏にターゲット層が一定数存在する
  • 直接競合が少ない、または差別化できるポジションがある
  • 交通アクセスと視認性が確保できる
  • 売上予測が損益分岐点を上回る

逆に「人口は多いが競合過多」「立地は良いが家賃が高すぎる」といったケースでは、条件の一つが極端に悪いと全体の収益性を圧迫するため、総合的なバランスで判断します。

売上予測の精度を上げるには、同業態の既存店舗のデータがあると強力です。既存店舗の実商圏から「1次商圏人口1万人あたりの月商」を算出しておけば、候補地の1次商圏人口から概算の月商を推計できます。既存店がない新規開業の場合は、業界団体が公表している坪効率や平均客単価のデータを参照します。

既存店の集客改善に活かす

既存店の場合、商圏分析で最も価値があるのは「取りこぼしている層」の発見です。

実商圏と理論商圏のギャップ分析 — 顧客データをプロットして実商圏を可視化し、理論上の商圏と比較します。1次商圏に住んでいるのに来店していない層がいるなら、認知不足やアクセス上の障壁が疑われます。

エリア別の来店率分析 — 商圏をメッシュ(250mまたは500m四方)に分割し、各メッシュの人口に対する顧客数の比率を算出します。来店率が低いメッシュには、ジオターゲティング広告やチラシ配布で重点的にアプローチするといった施策設計につなげられます。

時系列での商圏変化の追跡 — 半年〜1年スパンで来店者の住所データを分析し続けると、商圏が拡大しているのか縮小しているのかが見えてきます。近くに競合が出店した後に2次商圏からの来店が減っているなら、そのエリアへの販促を強化するか、別のエリアに注力するかの判断材料になります。

顧客属性と商圏のクロス分析 — 「ファミリー層は車で来るため2次商圏からの来店が多い」「単身層は徒歩圏がほとんど」など、顧客属性ごとに商圏の広がり方が異なります。属性別に商圏を描くことで、ターゲットに応じた施策が打ちやすくなります。

多店舗展開における商圏分析の注意点

FC本部や多店舗チェーンの場合、単店舗の商圏分析とは異なる視点が必要になります。

カニバリゼーションの把握

最も注意すべきは、自社店舗同士の商圏重複です。新店の出店が既存店の売上を食う「カニバリ」は、多店舗展開でよくある失敗パターンです。

対策としては、全店舗の商圏をGIS上にプロットし、重複エリアを可視化します。重複が避けられない場合は、店舗ごとにターゲット層を変える、営業時間を差別化するなどで棲み分けを設計します。

ドミナント戦略との両立

一方で、あえて商圏を重複させて地域内シェアを高める「ドミナント戦略」もあります。コンビニ大手が同一エリアに複数出店するのが典型例です。

ドミナント戦略が有効かどうかは、ブランド認知の効率、物流コスト、採用コストなどを含めた総合判断が必要で、単純な商圏分析だけでは答えが出ません。「面」で市場を押さえることによる効果が、カニバリによるマイナスを上回るかどうかがポイントです。

加盟店への展開支援

FC本部にとって、加盟店オーナーに商圏データを共有して集客施策を一緒に設計できる体制を作ることは、加盟店の売上向上=ロイヤルティ収入の増加につながります。本部が一括で商圏分析ツールを契約し、各店舗の商圏レポートを定期的に配信する仕組みを構築できれば、加盟店の運営支援の質が底上げされます。加盟検討者への提案資料としても、商圏分析レポートは「このエリアでの売上ポテンシャル」を数値で示す説得力のあるツールになります。

まとめ

商圏分析は、出店判断や集客改善に欠かせない意思決定の基盤です。以前は大手チェーンが高額なGISツールを導入して行うものでしたが、jSTAT MAPやe-Statなどの無料ツールを使えば、中小事業者でも基礎的な分析が実施できる環境が整っています。

商圏分析を進める際のポイントを改めて整理します。

  • 分析の目的(出店判断か集客改善か)を最初に明確にする
  • 統計データ、自社顧客データ、競合情報の3つを最低限押さえる
  • 業種ごとに商圏距離が異なるため、自社の業態に合った範囲を設定する
  • ライリーの法則やハフモデルの考え方で、競合の引力を加味して商圏を補正する
  • 分析結果をデジタル広告のエリア設定やチラシの配布範囲に直接反映する
  • データ分析と現地調査を組み合わせて判断精度を上げる

とくに多店舗展開やFC事業を行う企業にとっては、商圏分析を組織の共通言語にすることで出店・販促の意思決定スピードと精度が向上します。中小事業者・個人オーナーの場合も、1店舗目の出店前に商圏を可視化しておくことで、感覚ではなくデータに基づいた意思決定ができるようになります。高額なツールを導入しなくても、無料データ+現地調査の組み合わせで十分に価値ある分析は可能です。

まずはjSTAT MAPで自社店舗の商圏を可視化するところから始めてみてください。既存の顧客データと突き合わせるだけでも、施策改善のヒントが見つかるはずです。出店後の集客施策の設計は店舗オープン時のマーケティング設計もあわせて参照してください。


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エリアデータと商圏分析を組み合わせた出店判断の支援、既存店の集客改善プランの設計を承っています。jSTAT MAPの使い方から本格的なエリアマーケティング戦略まで、事業フェーズに応じたサポートが可能です。

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よくある質問

Q. 商圏分析を始めるのに必要なデータは何ですか?

A. 最低限必要なのは、店舗住所、国勢調査の人口統計データ、競合店舗リストの3つです。顧客の住所データがあればさらに精度が上がります。jSTAT MAPを使えば無料で人口統計をマッピングできます。

Q. 商圏分析に使える無料ツールはありますか?

A. 総務省統計局のjSTAT MAPが最も代表的な無料ツールです。商圏の人口・世帯数・年齢構成を地図上に可視化できます。Googleマイビジネスのインサイトデータやe-Statの統計データも併用すると効果的です。

Q. 商圏の範囲はどうやって決めますか?

A. 一般的には1次商圏(徒歩10分圏)、2次商圏(車10分圏)、3次商圏(車20分圏)の3段階で設定します。業態や立地によって目安は変わるため、既存店舗の顧客データから実際の来店範囲を特定するのが最も正確です。

Q. 商圏分析を外注する場合の費用相場は?

A. 簡易レポートで10〜30万円、GISを使った詳細分析で30〜80万円、出店戦略コンサルティングまで含めると100万円以上が目安です。まずは自社で無料ツールを使った基礎分析を行い、判断が難しい局面で専門家を活用するのが費用対効果の高い進め方です。

Q. 業種ごとに商圏の範囲は異なりますか?

A. 大きく異なります。コンビニの1次商圏は半径500m、美容室は1〜2km、フィットネスジムは3〜5km、大型商業施設は車30分圏が目安です。ターゲット顧客の来店手段や来店頻度によって商圏の広さが変わります。

Author / Supervisor

山本 貴大

監修

山本 貴大

代表取締役 / 株式会社ローカルマーケティングパートナーズ

中央大学卒業。日系上場コンサルティング会社で3年勤務後、M&Aベンチャー執行役員を経て2022年に独立。BtoBマーケティング支援・FC加盟店開発・M&Aアドバイザリーを専門領域として、戦略設計から施策実行まで一気通貫で担う伴走型支援に取り組んでいる。

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